花井哲郎の2001年アントワープ便り
1.「長3度の罠」8月28日
2.「音楽と言葉(1)」8月29日
3.「音楽と言葉(2)」8月31日
4.「レベッカ・スチュワート師」9月1日
5.「修道院の鐘の音」9月7日
6. アントワープ便り・付録その1、2

3.「音楽と言葉(2)」8月31日

古い様式のステンドグラス 言葉が生かされた演奏をやっと聴けた。オランダの4人の男声歌手のグループ「エギディウス・カルテット」がソプラノ歌手とガンバ3人を加えた編成でジョスカンのシャンソンを歌った演奏会で、曲の内容によって、編成を工夫し、ちょっとしたお芝居風に演出したり、朗読を交えたり、変化に富んでいて楽しかった。バスを歌っていた長身のドナルト・ベントフェルゼンは私がロッテルダム音楽院の合唱指揮科を卒業する際の演奏会に出てもらった人で、なつかしかった。

 昨晩のバンショワ・コンソートはジョスカンのモテットの真作・偽作を集め、それも素晴らしい音楽ばかりで、大変聴きごたえがあった。とはいえ休憩無しに1時間半(この音楽祭の期間中すべての演奏会は休憩無し)重厚なモテットが内容的には何の脈絡もなく延々と続いていくと、さすがにこれは一体何のための音楽なのか分からなくなる。音楽学の論文でも読んでいるような気分だ。若手も多い新鮮味のある団体ではあるが、英国風和音の固まり唱法には変わりなく、途中でやはりこっくりしてしまった。ジョスカン作品の真贋問題についてはこのところ議論にひとつの新しい方向性が提示されていておもしろいので、近々一文にまとめてみようと思っている。

 ところがところが、今晩は予期せぬ掘り出し物に大当たり!イタリアの「ミクロロゴス」は興奮の連続、痛快な南国の祭典だ。リーダーの歌手パトリツィア・ボーヴィはスタイルも抜群、白い歯がこぼれる笑顔が魅力的な大柄で快活な、明るいイタリア美女、地声をいやらしくなく柔らかく、時にはものすごい迫力で聴かせ、歌手と器楽奏者計10人の男たちを見事に統率していた。みんな、見ているだけで吹き出したくなるような個性的な芸人揃い。打楽器やシャルマイ、バグパイプなど大きな音を効果的に使い、思わず手を打ちならして踊りたくなる演奏だ。

 ジョスカンとナポリ、などというこじつけのようなタイトルだったが、そんなことはどうでも良く、今までは歌詞対訳やら曲名やらを仔細に調べながら、額にしわを寄せて聴いていたのが、今晩だけはもう、目はパトリツィアにほとんど釘付け、コルシカの歌手のようなテノールのお兄さんのド明るい声や、見事な打楽器に感嘆しっぱなし。南部イタリアの気質を200パーセント発揮している。もちろん、イタリア語の響き、イタリア語のリズム感だ。ブルゴーニュ宮廷の優雅さや、カンブレ大聖堂の洗練された対位法とは何の関係もないが、ルネサンスでもこのくらい羽目を外す大騒ぎもなくてはね。


→「レベッカ・スチュワート師」9月1日 へ続く
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