ヴォーカル・アンサンブル カペラ 2023/24定期公演2 シリーズ 知られざる傑作3 聖母の夕べの祈り~ゴンベールとポスト・ジョスカン世代の作曲家たち

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ヴォーカル・アンサンブル カペラ 2023/2024 定期公演 2 
シリーズ 知られざる傑作 3

聖母の夕べの祈り
〜ゴンベールとポスト・ジョスカン世代の作曲家たち

〜グレゴリオ聖歌とルネサンス・ポリフォニーによる典礼形式の演奏会

2024年1月19日(金)カトリック関口教会 東京カテドラル聖マリア大聖堂
19時15分 開演(18時30分 開場)
*開演20分前より音楽監督の花井哲郎による説明があります

>> [期間限定]プログラム・ノートを読むにはこちらをクリック

曲目

グレゴリオ聖歌 聖母の晩課
Gregorian chant, Vesprae de Beata Maria Virgine

ニコラ・ゴンベール Nicolas Gombert (ca.1495-ca.1560)
「めでたし いとも聖なるマリア」“Ave sanctissima Maria”
「アヴェ・マリア」“Ave Maria”
「わたしは園へ下って」“Descendi in hortum meum”
第4旋法のマニフィカト Magnificat quarti toni

クレメンス・ノン・パパ Clemens non Papa (ca.1510/1515-1555/56)
「わたしは野の花」“Ego flos campi”

ジャン・リシャフォール Jean Richafort (ca.1480-ca.1550)
「サルヴェ・レジーナ」 “Salve Regina”

トマ・クレキヨンThomas Crecquillon (ca.1505/15-1557?)
「茨の中のゆりの花のよう」“Sicut lilium inter spinas”

演奏 ヴォーカル・アンサンブル カペラ

Superius:鏑木綾 佐藤裕希恵
Contratenor/Tenor: 櫻井元希 富本泰成 柳嶋耕太 渡辺研一郎
Bassus:谷本喜基 松井永太郎
Maestro di Cappella (音楽監督):花井哲郎

チケット料金【全席自由】

前売・一般席 4,600円(税込)
前売ペア席 8,500円(税込)
学生席 2,500円(税込)
当日 5,100円(税込)
*会員優先席あり
*学生券を購入された方は入場時に学生証をご提示ください
*前売ペア券は二人同時にご入場ください

e+(イープラス) https://eplus.jp/sf/detail/3988560001-P0030001P021001
コーラス・カンパニー https://choruscompany.com/concert/240119cappella/
東京古典楽器センター 03-3952-5515 交通アクセス
サンパウロ(「四谷」駅前)03-3357-8642 交通アクセス

配信チケット料金【好評販売中】

【公演当日から2月2日(金)まで、2週間】
配信チケット 2,500 円(税込)
応援チケット 5,000 円 (税込) 
*いずれもシステム手数料 220 円(税込) が別途かかります
WOOMO(ウーモ)https://www.woomo.jp/products/detail/2724

お問い合わせ事務局

フォンス・フローリス
070-4123-0871(平日10時 -17時) contact@fonsfloris.com

主催 株式会社フォンス・フローリス

文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術等総合支援事業(創造団体支援))
独立行政法人日本芸術文化振興会


新たな年を、心静かに−−−アヴェ・マリア

 ルネサンスの時代、キリストの母、聖母マリアを敬い、取りなしの祈りを願うための美しい音楽作品が多数作曲されました。
 この演奏会では16世紀、偉大なる巨匠ジョスカン・デ・プレの次の世代を担ったフランス・フランドルの作曲家たちによる、知られざる聖母モテットの傑作を集めました。演奏会前半は通模倣様式の大家ゴンベールの作品を、グレゴリオ聖歌による聖母の晩課(ヴェスプレ)の中にちりばめ、後半では聖母のための代表的な聖歌「サルヴェ・レジーナ」を核とした「サルヴェの祈り」という夕刻の祈祷の形式でプログラムを組みました。一年の初め、香り高き祈りの音楽で心静かにお過ごしください。。


演奏 ヴォーカル・アンサンブル カペラ vocal ensemble CAPPELLA

1997年古楽演奏家 花井哲郎が、古楽に取り組む声楽家たちと共に結成。主なレパートリーはグ
レゴリオ聖歌、及びフランス・フランドルを中心としたルネサンスの多声音楽(ポリフォニー)です。典
礼の形式を尊重し、歴史的な”計量記譜”を使用する演奏法にこだわって、アカペラの柔らかく豊か
な響きで宗教作品の気高い精神性を歌い上げます。
クラシック音楽専門インターネットラジオOTTAVAのジングルを担当。2015年第27回ミュージッ
ク・ペンクラブ「室内楽・合唱音楽部門賞」受賞。最新CDはジョスカンの没後500年を記念するシ
リーズ8作目「ジョスカン・デ・プレ ミサ曲全集 第8集 カノンのミサ」(レグルス)。ストリーミング配
信、全国のCDショップにて絶賛発売中。
公式サイト cappellajp.com / twitter @cappellajp / facebook @cappella.jp

会場へのアクセス

カトリック関口教会 東京カテドラル聖マリア大聖堂

東京都文京区関口3-16-15
ホテル椿山荘の前
公式webサイト https://catholic-sekiguchi.jp/contact/access/

【地下鉄で】
東京メトロ有楽町線「Y12 江戸川橋駅」1a 出口より
徒歩約15 分
※エレベーター出口もあります

【バスで】
JR 山手線「目白駅」より・・・都営バス白61系統「新宿駅西口行き」
JR 山手線「新宿駅」より・・・都営バス白61系統「練馬車庫前行き」
→ どちらも「ホテル椿山荘東京前」下車徒歩1分

[期間限定公開]プログラム・ノート

 花井哲郎(ヴォーカル・アンサンブル カペラ音楽監督 / 古楽演奏家)

聖母の晩課

 ルネサンス時代の宗教音楽は、今日一般的な演奏会などで音楽作品として「鑑賞」するためではなく、教会の典礼の中での祈りのために作られたものです。なかには特別な行事、また高位聖職者や貴族の楽しみのために典礼とは関係なく館の一室で演奏されたようなものもあったと思われますが、主な「演奏の場」はミサや聖務日課といった聖堂内での儀式です。したがってそういったコンテクストの中でミサ曲やモテットを聴き、その歌詞の中に祈りの気持ちを込めて聴くことが、作品を理解し味わうために大事だと考えられます。

 そういうわけで、本日のプログラム前半は聖母に捧げる晩課の形式で組まれています。晩課は教会の日々の祈りである聖務日課の一つで、夕方のお祈りのことです。ミサが、パンとぶどう酒の形のうちにおられるキリストの御体と御血を御捧げして拝領することがその主な目的であるのに対して、聖務日課は定められた時刻に日々欠かさず行われる祈祷の典礼です。現在でもベネディクト会などの伝統的な典礼を守る修道院に行くと体験することができますが、そこでは修道士が日に8回聖堂に集い、毎日祈りの時課を行っています。その中心になるのは旧約聖書にある祈りの書、詩編の朗唱です。150ある詩編を一日8回一週間の日課に配分して、一週間ですべての詩編を唱えるように規定されています。かつては司教座聖堂(カテドラル)を始めとした、聖職者が共同生活をしている教会や、また宮廷礼拝堂などでもグレゴリオ聖歌によって、また大祝日などには時にポリフォニーも含んだ聖務日課の典礼が荘厳に行われていました。

 詩編にはその日にお祝いする内容を要約した言葉を歌詞とする、アンティフォナという聖歌が前後に付随します。さらに、有節歌曲の形式を持つ賛歌(イムヌス)や、詩編に類する新約聖書からの賛美の歌などが加わって、聖務日課の典礼が成り立っています。晩課の際にはマリアの歌マニフィカト(「わたしの魂は主をあがめ」)が必ず唱えられることになっており、古来様々な作曲家がこの部分をポリフォニーの作品として作曲しました。

 本日は聖母マリアのための晩課で、それにふさわしいグレゴリオ聖歌の他に、16世紀の作曲家ニコラ・ゴンベールらのポリフォニー作品(多声楽曲)が随所に挿入されます。詩編の前後のアンティフォナについては、詩編前は本来のグレゴリオ聖歌ですが、詩編後のリフレインについては、アンティフォナと全く同じか、関連した歌詞を持つゴンベールのモテットによって代用することにしました。アンティフォナ、詩編朗唱、モテットの組み合わせが4回あって、その後短い聖書朗読である6. 小課が続きます。次は有節歌曲の形式を持つ賛歌(イムヌス)で、聖母の晩課では「めでたし 海の星」”Ave maris stella” が歌われます。本日は神聖ローマ皇帝マクシミリアン2世に使えたフランドルの作曲家ヤコブス・ファートの作品を演奏します。聖職者が聖堂の左右に分かれて節ごとに順番に歌う交互唱の伝統を受けて、偶数節のみが作曲されています。第2節は4声、第4節は3声、そして第6節は5声部になり、奇数節はグレゴリオ聖歌で歌われます。

 そして晩課のクライマックスはマニフィカトで、これはキリストを身ごもったマリアが親類のエリザベトを訪問した際に歌った讃美の歌です。詩編と同様の、しかし詩編よりは荘厳な音調による朗唱ですが、今回は偶数節はゴンベールによるポリフォニー作品を、単旋律の朗唱と交互に演奏します。マニフィカトにはやはり詩編と同様にその前後にはアンティフォナが付随します。アンティフォナはその日のテーマに応じて、お祝いする内容にふさわしい歌詞で、日々繰り返される詩編やマニフィカトなどにその典礼に固有の意味合いを付与する役目を持っています。本日は聖母の典礼にあてがわれている8a(c). マニフィカトのアンティフォナ「聖マリア、哀れな者たちを助けに」”Sancta Maria, succurre miseris” が歌われます。

アンティフォナのもう一つの、音楽的な役割は、続く朗唱のパターンを規定することです。グレゴリオ聖歌は基本的に8つの教会旋法のどれか一つに分類されますので、アンティフォナの持つ旋法の朗唱パターンで詩編やマニフィカトが唱えられるのです。ルネサンス時代の作曲家がマニフィカトをポリフォニーに作曲する際には、多くの場合この朗唱の旋律に基づいて、その旋法素材を作品に取り入れますので、作品は第何旋法のマニフィカト、といった具合のタイトルになります。マニフィカトのアンティフォナ「聖マリア、哀れな者たちを助けに」が第4旋法ですので、ゴンベールのマニフィカトも第4旋法のマニフィカトを選んでいます。

 最後に祈祷の言葉が続き、感謝の言葉ベネディカームス “Benedicamus” で晩課は終了します。その旋律は何種類もありますが、聖母の晩課では、聖母ミサのキリエの旋律に基づいたベネディカームスです。

ニコラ・ゴンベール

 ルネサンス音楽最大の巨匠ジョスカン・デ・プレの弟子といわれる、ポスト・ジョスカン世代の作曲家のなかでも、ひときわ強烈な個性を持つのがニコラ・ゴンベール Nicolas Gombert (ca.1495-ca.1560) です。モテットを中心とした、数多くの質の高い作品を残していますが、どの曲も明確な様式を備え持っています。現代ではジョスカンや、次の世代のパレストリーナの陰に隠れてしまい、演奏されることが大変少ないですが、1450年頃から1550年頃の音楽史上の時代を、順番にそれぞれオケゲム、ジョスカン、ゴンベールの3つの時代に区分した研究者もいたほど、その時代を特徴付ける、際だった作曲家なのです。ゴンベールは、ジョスカンが晩年を過ごした北東フランスの町コンデ・シュル・レスコー Condé- sur-l’Escaut にほど近い地方で生まれ、おそらくコンデに出向いてジョスカンの教えを受けたと思われます。

 ゴンベールの生涯についてはっきりとした記録が残っているのは、スペイン王にして神聖ローマ帝国皇帝、ハプスブルク家のカール5世 (1519-1556) の宮廷にいた1526年から1537年までの間だけであり、その前後の動向についてはよくわかっていません。この宮廷聖歌隊には本日の賛歌「めでたし 海の星」の作曲家ヤコブス・ファートも一時仕えていたと思われます。当時全ヨーロッパのなかでも最も有力な宮廷において、当代最高の聖歌隊の一員として、また宮廷の少年聖歌隊長、また典礼音楽や世俗歌曲であるシャンソンの作曲家として活躍したわけで、ゴンベールが高く評価されていたことがうかがわれます。

 カール5世の宮廷は、スペインのみならず大帝国の各地を移動することの多かった旅する宮廷で、ゴンベールもそれに随行しました。ボローニャでの、教皇クレメンス7世によるカール5世の戴冠式、アウクスブルクでの帝国議会など、歴史的な大行事を目のあたりにしたほか、イタリアやドイツの様々な音楽家との交流を深めました。その作品は、滞在先各地などの手稿写本に残されているほか、16世紀に急速に発展した楽譜印刷によって、印刷譜として数多く出版されています。もちろん本家スペインでの影響は大きく、教会で聖歌隊が使用する大型楽譜コワイヤ・ブックなどにその作品が残されているほか、没後に到るまで音楽理論書に模範的作曲家として取り上げられています。

 ブルゴーニュ公の血筋をひき、フランドル地方で育ち、フランス・フランドルの高度に洗練された文化的素養を身につけたカール5世は、聖歌隊にもフランス・フランドル出身の音楽家ばかりを採用しました。もちろん15世紀から16世紀前半にかけてはフランドルが音楽の中心地であり、質の高い音楽家が揃っていたからでもあるでしょう。宮廷聖歌隊は、ローマでの教皇の聖歌隊や、ヨーロッパ最高水準を誇っていた北フランスのカンブレ大聖堂の聖歌隊と同じように、オルガニスト以外は器楽を一切含まない、純粋に声楽のみの演奏団体でした。

 さて、ゴンベールはカール5世の依頼で、新たに雇用する歌手を選定するためにフランドル地方に派遣され、1537年11月に、少年を含む20人ほどの新しい歌手と、少年たちのためのラテン語の教師、そして新しいオルガニストひとりを引き連れてスペインの宮廷に戻り、その報酬を受け取ります。しかし、その後宮廷の記録からゴンベールの名前がぷっつりと消え去ってしまうだけでなく、その後も引き続き出版されていく楽譜集には、それまで記されてきた「皇帝の音楽家」といったような称号も使われなくなってしまいます。突如解雇されたのです。一体何があったのでしょう。当時カルダーヌスというイタリアの高名な学者がいました。医師としてデンマーク、スコットランドに到るまで各地の王室などに重用され、ボローニャで医学を教え、人文主義者として著作を残しています。スペインではカール5世の宮廷とも親しく、またゴンベールが晩年に作品を献呈したことが知られているゴンザーガ家のフェルランテの友人でもありました。つまり、直接、あるいは間接的にゴンベールのことを知っていたのですが、このカルダーヌスの著作の中で、音楽家によく見られる神経症の症例のひとつとして、ゴンベールのことが取り上げられているのです。それによると、病的な面を持っていたゴンベールは聖歌隊員の少年の一人を陵辱してしまい、そのため皇帝にガレー船漕ぎの刑に処せられたということです。しかしながら、新たな作品を作曲して皇帝に献呈したことで恩赦を受け、現在のベルギーある、ゴンベールの故郷と思われるトゥルネーの大聖堂で聖職者として余生を送ります。

 カルダーヌスが「白鳥の歌」と描写したこの作品が、1552年制作の豪華写本に伝わる8曲のマニフィカトであり、その頃に恩赦を受けた、と考えられてきましたが、最近の研究によると、むしろ1539年に出版された4声のモテット曲集第1巻が、それに相当するということです。本日演奏の第4旋法のマニフィカトはこの8曲のうちの一つ、またプログラム最初のモテット2c.「めでたし いとも聖なるマリア」Ave sanctissima Maria が4声のモテット曲集第1巻に含まれています。その後1540年代にもゴンベールの作品は出版されており、創作活動を続けていたことは間違いないので、事件後間もなく恩赦を受け、宮廷からは追放されたものの、実際に服役することはなかったのでしょう。ドイツの理論家ヘルマン・フィンクは1556年の著書のなかで、音楽の刷新者たちのなかでもジョスカンの弟子であるゴンベールこそが、すべての音楽家に進むべき方向性を指し示しているのだと賛辞を贈っています。生没年は知られていませんが、フィンクのこの著作ではまだ存命とされており、1561年の医師カルダーヌスの著作では物故者になっているので、その間、おそらく1560年頃に亡くなったものと考えられます。

実は多彩な音世界

 では、ゴンベールの新しさ、その特徴、またその後の作曲家たちが従ったその道とはどのようなものなのでしょう。先輩であるジョスカン・デ・プレと比較してみると、その傾向が浮かび上がってきます。さすがに師であるということで模倣の技法において、ジョスカンが例えば有名なミサ《パンジェ・リングァ》などで示した通模倣様式へ向かう方向を引き継いで、発展させていったことは明らかです。つまり、4声、また5声以上の各声部が、それぞれ対等の重みを持ち、歌詞の一行に対して形作られた一つの旋律を、各声部が音高を変えながらもほぼ同じ形で順次模倣しながら曲が進んでいきます。しかしジョスカンでは、2声部だけのデュエットが、いろいろな声部の組み合わせで要所要所に現れたり、大事な言葉を完全なホモフォニー、つまり和音ブロックによって強調してみたり、あるいは、古い伝統を受け継いでテノールなど一つの声部だけに長い音価で定旋律を歌わせてみたり、楽曲の構成は多様で変化に富んでいます。

 ところが模倣を徹底的に推し進めていったゴンベールでは、そのような意味での多様性は一切なく、模倣がひたすら、実に緻密に繰り返されていきます。一つの楽句が全声部で模倣、展開されると、新しい歌詞で次の楽句がまた各声部に現れていくのですが、その際ゴンベールで特徴的なのは、区切りがまったく感じられずに、新しいセクションがいつの間にか始まり、それが連綿と続いていくということです。ジョスカンなどでは、そのような場合一度完全に終止するか、少なくとも一つのセクションの終止を示唆した上で、次が始まることが多いので聴き取りやすいのですが、ゴンベールは、まさにそれを避けています。ゴンベールが避けているのは、明確なカデンツです。曲の流れからはここでカデンツが来るだろうと予期させる動きがありますが、それをひょいっ、とかわしてしまい、次の旋律を始める、あるいはまだ前の模倣が激しく重なり合っている真っ最中に、新しい旋律を始めてしまうのです。ジョスカンでもそのようなことはもちろんありますが、ゴンベールはそれを本当に徹底させています。すべての声部が、長い休みはなく、ほとんど歌い続けていますから、全体として響きは豊かで重厚です。一度動き出したら、ゆったりとした動きではありますが、最後の和音に到るまで止まることはありません。

 旋律そのものも、大胆な飛躍や、激しいリズム、また舞い上がるように華麗なメリスマのパッセージなどは一切なく、おだやかなグレゴリオ聖歌の旋律のように、静かに語るかのようです。しかし、それぞれの旋律は、ラテン語の歌詞を時にフランス風な抑揚に合わせて、歌詞の特徴を生かして多様に造形されています。また楽句が現れる声部の順番やタイミングなども様々で、注意深く聴き込んでいくと、限りなく変化に富んだ極彩色の宇宙が開けてくるのです。要するに、大げさな身振りをすることなく、意外な展開で驚かせることもなく、淡々と語りながらも不思議な瞑想に引き込み、霊的滋養に富んだ世界を見せてくれる、そんな音楽なのです。実はこれは、詩編朗唱が淡々と続いていく聖務日課の世界にとても似ていると思います。響きとしては単調であっても、悲しみ、絶望から喜び、感謝、賛美と多様な内容の祈りである詩編が、様々な旋法で繰り広げられていくのが聖務日課です。瞑想のうちにその世界に浸ることで、普段は閉ざされている心の扉が少しずつ開いていくのが、感じられるのではないかと思います。

サルヴェの祈り

 ミサや聖務日課といった正規の典礼とは別に、夕方などに聖堂に集まって祈りの会を開き、歌手を雇って聖母のための聖歌を歌わせる、ということがルネサンスの時代にはよく行われていました。聖歌「サルヴェ・レジーナ(めでたし元后)」が特に好まれたので、サルヴェの祈り Office de Salve あるいはオランダ語では「讃美」を意味する「ロフ」 Lof などとよばれました。プログラム後半はそのようなサルヴェの祈りを再現したものです。導入の言葉10. 「神よ、わたしを助けに」に続いてまずグレゴリオ聖歌の長い独立したアンティフォナ11. 「あなたは美しいものとなられました」Speciosa facta es が歌われますが、その歌詞は前半の晩課で演奏されたゴンベールのモテットの歌詞に近いものです。晩課でのアンティフォナは同じタイトルですが、そちらの方は最初の一行だけの短いヴァージョンです。

 次は聖母のモテット12. 「わたしは野の花」“Ego flos campi”です。作曲者クレメンス・ノン・パパは本名はヤコブ・クレメントであったと思われますが、南オランダ出身で、オランダ語による詩編歌の編纂者としても知られています。オランダのスヘルトーヘンボス(デン・ボス)という町に巨大なゴシック様式の大聖堂がありますが、その一部に立派な小聖堂が作り付けられています。その聖堂は当時のヨーロッパ各地の大貴族らが名を連ねていた信心会「聖母兄弟団」Illustre Lieve Vrouwe Broederschap が所有するもので、クレメンス・ノン・パパはその作曲家として雇われていたことがありました。旧約聖書の雅歌の言葉による7声部のモテット「わたしは野の花」は、この兄弟会のために作曲されたということで、7声は聖母を象徴する数である7に基づいていると考えられます。歌詞の中に「茨の中のゆりの花のよう」Sicut lilium inter spinas という言葉がありますが、これが聖母兄弟団のモットーでした。

 サルヴェの祈りの中心はもちろん聖母への切々とした祈りの歌「サルヴェ・レジーナ(めでたし 元后)」です。本日はポスト・ジョスカン世代の作曲家ジャン・リシャフォール Jean Richafort の13. 「サルヴェ・レジーナ(めでたし 元后)」“Salve Regina”を演奏します。リシャフォールはジョスカン・デ・プレの弟子と考えられ、その死を悼むレクィエムを作曲しています。この5声のサルヴェ・レジーナも、ジョスカンのやはり5声のサルヴェ・レジーナの冒頭を思わせる特徴的なモチーフに始まります。3つのセクションからなり、中間部はスペリウスを欠く低い4声部のみが聖母のあわれみの目を慕い求めます。

 演奏会の締めくくりのモテット15. トマ・クレキヨン「茨の中のゆりの花のよう」“Sicut lilium inter spinas”はクレメンス・ノン・パパの曲にも含まれていた聖母兄弟団のモットーで始まります。クレキヨンはゴンベールと同様、神聖ローマ帝国皇帝カール5世に仕えていました。ミサ曲やモテットの他に、多数のシャンソンを作曲したことで知られています。声部間の模倣が基本ではありますが、ゴンベールのように徹底はしておらず、どちらかというと自由気ままに作られている感じがします。シャンソン作曲家らしい生き生きとした喜びにあふれた作品です。

 ジョスカンの影響を大きく受けながら、それぞれに新しい道を切り開いていったポスト・ジョスカン世代の作曲家たちの名作の数々を、ハプスブルク宮廷やデン・ボスの聖母兄弟団で行われていたであろう、聖母の取りなしの祈りを願う典礼の形のなかで、どうかじっくりと味わってください。


【新型コロナウイルス感染予防に関するお知らせとお願い】

 公演開催に際し東京都やクラシック音楽公演運営推進協議会によるガイドラインに従い、新型
コロナウイルス感染拡大予防策を引き続き実施しますので、ご協力のほどお願い申し上げます。
・マスク着用は来場される方の判断といたします。
・なお、発熱・咳・倦怠感等症状のある方は、ご来場をお控えください。

vocal ensemble Cappella
“Vesprae de Beata Maria Virgine”
(“Vespers for the Blessed Virgin”)

Gombert and the Post-Josquin Generation of Composers
Liturgical concert with
Gregorian chant and Renaissance polyphony

Date: 2024/01/19(fri.) 19:15 (Opening: 18:15)
Venue: St.Mary’s Cathedral Tokyo(Tokyo Cathedral)

Programme:
Gregorian chant, Vesprae de Beata Maria Virgine
Nicolas Gombert (ca.1495-ca.1560)
“Ave sanctissima Maria”
“Ave Maria”
“Descendi in hortum meum”
Magnificat quarti toni
Clemens non Papa (ca.1510/1515-1555/56)
“Ego flos campi”
Jean Richafort (ca.1480-ca.1550)
“Salve Regina”
Thomas Crecquillon (ca.1505/15-1557?)
“Sicut lilium inter spinas”

Price(includes tax):
advance ticket 4,600JPY
2 advance tickets(“pair ticket”) 8,500JPY

Student discount 2,500JPY
*you will need to show your Student ID

door 5,100JPY

Buy Tickets:
e+(e plus) https://eplus.jp/sf/detail/3988560001-P0030001P021001?P1=0175

Buy Streaming Tickets:
coming soon

【うちでカペラ】デュファイ「ミサ《スラファセパル》」定期演奏会の音源と動画をwoomoにて販売中です

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woomo(ウーモ)にて、下記の定期演奏会の音源と動画を販売中です。
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